横浜地方裁判所 平成3年(行ウ)25号 判決 1992年9月30日
原告 荒井商事株式会社
被告 平塚税務署長
訴訟代理人 浅野清美 津田真美 添田稔 越智敏夫 江本修二 ほか二名
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が平成元年七月三一日付でした、原告の昭和六二年一〇月一日から昭和六三年九月三〇日までの事業年度(以下「本件係争事業年度」という。)の法人税の更正処分(以下「本件更正」という。)のうち、所得金額六七七七万四七二六円を超える部分及び右部分に係る過少申告加算税賦課決定処分を取消す。
第二事案の概要
原告は、中古自動車の競り売りを開催するものであるが、本件係争事業年度に開催された関東中央オートオークションにおいて行った抽選会の景品の購入に要した別表一の1の費用三二〇万八六一六円(以下「本件費用」という。)を、支払奨励金として、損金に算入して確定申告をしたところ、被告は、本件費用を交際費等に該当するとして損金算入を認めず、本件更正をした。そこで、原告が、本件費用は支払奨励金、販売促進費ないしは宣伝広告費に該当し、交際費等ではないと主張して、本件更正の一部等の取消を求めたのが本件である。
一 本件課税処分の経緯等
原告の本件係争事業年度の法人税について、原告がした確定申告、これに対して被告がした本件更正、過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定」という。)の経緯は、別紙「課税処分の経緯」に記載のとおりである(争いがない。)。
二 本件更正の根拠
原告の本件係争事業年度の法人税の所得金額は、次表のとおり七〇九八万三三四二円である(注・△は減算額を表す。)。
項目
金額
<1>
申告所得金額
四六一七万五〇七一円
<2>
交際費等の損金不算入額
七四八万一九二三円
<3>
受取利息計上もれ
一〇〇万〇〇〇〇円
<4>
当期の損金とはならない支払奨励金
二八四万〇〇〇〇円
<5>
損金の額に算入されない支払奨励金
二六四万五〇〇〇円
<6>
当期の損金とはならない開業費
一一五一万六七七七円
<7>
未納事業税額
△ 三六万一四〇〇円
<8>
寄附金の損金不算入の減少額
△ 三一万四〇二九円
所得金額(<1>+<2>+<3>+<4>+<5>+<6>-<7>-<8>)
七〇九八万三三四二円
1 申告所得金額 四六一七万五〇七一円
右金額は、原告が昭和六三年一一月三〇日被告に提出した本件係争事業年度の法人税の確定申告書に記載した所得金額である。
2 交際費等の損金不算入額 七四八万一九二三円
本件係争事業年度終了の日における資本金額は一億円であり、原告は、租税特別措置法(ただし、平成元年法律第一二号による改正前のものをいう。以下同じ。)六二条一項の規定により、交際費等の金額のうち損金に算入できる金額はないから、原告が支出した交際費等の金額は、すべて損金不算入とされる。
したがって、租税特別措置法六二条三項にいう交際費等に当たる次の(一)ないし(五)の合計額七四八万一九二三円の全額が、交際費等の損金不算入額となる。
(一) 得意先に対する景品の購入費用及び得意先の妻子等の接待費用 四四二万三三一六円
右金額は、支払奨励金中、別表一の1記載の関東中央オートオークション(以下「本件オートオークション」という。)における得意先に対する景品の購入費用三二〇万八六一六円(本件費用)と、別表一の2記載の本件オートオークションに来場した得意先の妻子等を接待するため遊園地等に招待した費用一二一万四七〇〇円の合計額であり、租税特別措置法六二条三項にいう交際費等に当たる。
(二) 懇親会の飲食費用 六六万〇二二〇円
右金額は、開業費中、帝国ホテルで行った「関東中央オートオークション懇親会」の際の飲食費用であり、租税特別措置法六二条三項にいう交際費等に当たる。
(三) 工事関係者に対する謝礼金 三一万〇〇〇〇円
右金額は、開業費中、「荒井東日本卸流通センター」のオープニングセレモニーの際に工事関係者に支払った謝礼金であり、租税特別措置法六二条三項にいう交際費等に当たる。
(四) 得意先に対する景品の購入費用 一九六万七〇〇〇円
右金額は、広告宣伝費中、「荒井東日本卸流通センター」のオープン記念セールの際に得意先に抽選で交付した別表二記載の景品の購入費用であり、租税特別措置法六二条三項にいう交際費等に当たる。
(五) 得意先を招待して行った地引き網の費用 一二万一三八七円
右金額は、会議費中、平間生産者地引き網招待の費用二四万二七七五円のうち、原告の負担した金額であり、租税特別措置法六二条三項にいう交際費等に当たる。
3 受取利息計上もれ 一〇〇万〇〇〇〇円
右金額は、原告が、江戸川中古自動車販売共同組合に対して預託金(申込証拠金)として一億円を預託した千葉県市川市高谷一九五三番六の土地建物の売買につき、右物件の売買契約が不成立となったことに伴い、原告が江戸川中古自動車販売共同組合から受領すべき右一億円に対する預託から弁済までの期間(昭和六三年五月一五日から同年七月一五日まで)の年利六パーセントの受取利息額である。
4 当期の損金とはならない支払奨励金 二八四万〇〇〇〇円
右金額は、次の(一)及び(二)の金額の合計額である。
(一) 債務未確定の支払奨励金 二四八万五〇〇〇円
右金額は、本件係争事業年度末において未払金として損金に計上した原告の参与に対する支払奨励金中、各参与の貢献度対応分であり、その明細は別表三記載のとおりである。
右金額につき、各参与に通知書が発送されたのが、本件係争事業年度の終了後である昭和六三年一二月一日であるため、本件係争事業年度においては債務が確定しておらず、右金額は当期の損金とはならない。
(二) 支払奨励金中過大計上分 三五万五〇〇〇円
右金額は、野州自動車工業に対する支払奨励金として損金に計上した七一万円のうち、計算誤りによる過大計上分である。
5 損金の額に算入されない支払奨励金 二六四万五〇〇〇円
右金額は、支払奨励金として損金に計上された現金決済の本件オートオークションの賞金のうち、支払先が明かにされなかった金額であり、別表四の1記載の本件係争事業年度の本件オートオークションの賞金一一四二万四〇〇〇円から別表四の2記載の支払先の判明した金額八七七万九〇〇〇円を控除して算定したものである。
6 当期の損金とはならない開業費 一一五一万六七七七円
右金額は、本件係争事業年度の前事業年度について被告が平成元年七月三一日付で、原告が損金経理した開業費一億四〇七五万四八二三円のうち一一五一万六七七七円を本件係争事業年度の前事業年度の損金の額とする更正処分を行ったことに伴い、その同額が本件係争事業年度の損金とはならなくなったものである。
7 未納事業税額 (欠損)三六万一四〇〇円
右金額は、被告が平成元年七月三一日付で、本件係争事業年度の前事業年度について更正処分を行ったことに伴って増加した所得金額に対応する本件係争事業年度の事業税相当額である。
8 寄附金の損金不算入の減少額 (欠損)三一万四〇二九円
右金額は、2ないし7の各項目を申告所得金額に加算あるいは減算して所得金額が変動することに伴い、寄附金の損金不算入額の再計算を行った結果生じた同損金不算入額の減少額である。
(2(一)の本件費用の取扱を除き、当事者間に争いがない。)
三 争点
本件費用が租税特別措置法六二条三項にいう交際費等に当たるか。
四 争点に関する被告の主張
1 本件費用に係る事実関係について
本件費用は、本件オートオークションの抽選会において交付された景品の購入費用であるが、本件費用の支出に至る事実関係は、以下のとおりである。
(一) 本件オートオークションの会員資格について
本件オートオークションは、不特定の者が自由に参加できるものではなく、その参加資格は、次の各号の要件を満たした者であるとされている(関東中央オートオークション規約五条、乙一)。
(1) 中古自動車取扱古物許可証を有する者であること。
(2) 本件オートオークションの会員契約を締結した業者であること。
(3) 前各号の条件を満たし、本件オートオークションに参加を承認された者であること。
(4) その他本件オートオークションが特別に認めた者であること。
(二) 本件オートオークションの抽選会の実施状況について
本件費用は、来場者を最後まで本件オートオークションに参加させるため、その終了後に行う抽選会の景品購入に要する費用であり(甲五)、原告が本件オートオークションにおいて実施した抽選会は、以下に述べるような方法によるものである。
(1) 抽選券の交付方法について
抽選券は、来場した会員に、本件オートオークションにおける中古自動車等の購入金額や購入数量には関係なく、均等に配付されるものである。
(2) 抽選の方法について
抽選の方法は、本件オートオークションの最後まで会場に残った会員のみが、公平に抽選に参加するものであり、本件オートオークションの終了前に帰ってしまった会員は、抽選の権利を失う。
2 交際費等の意義について
租税特別措置法六二条三項は、交際費等の意義について規定しているが、その規定内容と、交際費等が、一般的にその支出の相手方及び支出の目的からみて、原告と得意先の親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図るために支出するものであることから、その要件は、第一に支出の相手方が事業に関係のある者であること、第二にその支出がかかる者に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為を目的とするものであること、にあるというべきである。
3 本件費用と交際費等について
右のような交際費等の要件に基づいて本件費用を見ると、まず第一に本件オートオークションの会員になれる者は、前記1(一)で述べた条件を満たした者でなければならず、中古車を売買等する場合には古物営業法二条一項の許可を得る必要があること等からすれば、右条件は、少なくとも中古自動車取扱古物許可証を有する者であることを求めるものであるから、本件費用の支出の相手方である本件オートオークションの会員が、原告の「事業に関係のある者」に限られていることは明らかである。
第二に、本件費用は、前記1(二)で述べたような方法により、抽選会で景品を交付して会員の歓心を買い、もって当該支出の相手先との間の親睦の度を密にして、取引の円滑な進行を図ろうとする趣旨に出たものであるから、まさに会員に対する贈答行為のために支出するものであるといえる。
したがって、本件費用は、2で述べた交際費等に該当するための二つの要件を満たしており、交際費等に当たる。
4 原告の主張に対する反論
原告は、本件費用は支払奨励金、販売促進費ないしは宣伝広告費に該当すると主張するが、いずれも失当である。
(一) 本件費用が支払奨励金に該当しないことについて
原告は、売上割戻しの性質を有する支払奨励金であると主張している。しかし、売上割戻しとは、販売促進のため得意先に対し、一定数量又は一定金額を一定期間中に買入れ、代金を決済した場合に支払う返戻額であるところ、本件費用が各会員に対する販売数量ないし販売金額に比例したものであるという主張はなく、また、本件オートオークションの抽選会が前記1(二)で述べたような方法で実施されている以上、本件費用が売上割戻しの性質を有しないことは明らかである。
(二) 本件費用が販売促進費に該当しないことについて
およそ交際費等に該当する費用は、租税特別措置法六二条三項に規定されているとおり、事業に関係のある者に対し、接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものであるから、これを支出する者は、それらの行為によって、おおむね自らの商品の販売促進を意図しているものであって、かかる意図で支出される費用が、税法上すべて損金に算入されるべき販売促進費になるわけではない。換言すれば、そのような意図で支出された費用であっても、前記2で述べた要件に該当する場合は、その費用を交際費等として課税する旨規定しているのであって、本件費用の場合も、前記2で述べた要件に該当する以上、損金に算入されるべき販売促進費ということはできない。
(三) 本件費用が宣伝広告費に該当しないことについて
本件費用は、前記1(一)で述べた各要件を満たした者に対し、1(二)で述べた目的と方法で行われる抽選会で交付された景品の購入費用であるところ、宣伝広告費とは、購買意欲を刺激する目的で商品等の良廉性を広く不特定多数の者に訴えるための費用をいう。これに対し、本件費用の支出の相手方である本件オートオークションの会員は、前記3で述べたように、事業に関係のある者に限られているから、本件費用は、任意かつ不特定多数の者に対するものとはいえず、宣伝広告費に当たらないことは明かである。
また、本件オートオークションの抽選会で景品を交付する結果として、付随的に本件オートオークションの会員に対して来場意欲を喚起する効果をもち、本件オートオークション自体に対する広告宣伝的効果を与えているとしても、本件費用の支出の主たる目的は、原告自身が主張するとおり、本件オートオークションの最後まで来場者を残して、来場者を最後まで本件オートオークションに参加させることにあるから、原告の右主張は失当である。
(四) 租税特別措置法六二条の合憲性
租税特別措置法六二条は、交際費等について、原則としてその支出額の全額を損金の額に算入しないものとしているが、中小企業に対する配慮等から、当該事業年度終了の日における資本又は出資の金額(以下「期末資本金等」という。)が五〇〇〇万円以下の法人は、支出した交際費等の額のうち定額に達するまでの損金算入を認め、当該事業年度において支出する交際費等の額が右定額を超える場合その超える部分の額は損金の額に算入しないものとしている(同条一項)。
右交際費等の損金不算入の制度は、昭和二九年に、冗費、濫費を節減して企業所得の内部留保による資本蓄積を図る等のために政策的に設けられたものであるが、その後も交際費等の額が毎年増加する状況及びこれに対する社会的批判が背景となって、課税の強化を図る改正が行われ、昭和五七年の改正において、原則として交際費等の額の全額を損金不算入とする規制内容となった。
租税特別措置法六二条一項は、交際費等に対する社会的批判にも、中小企業と大企業との間にはおのずから差があることから、交際費課税を強化する改正の際にも、法人を期末資本金等により段階的に区別し、厳しい経済環境にある中小企業に対しては特段に配慮する趣旨に基づき、大法人と中小法人を区別して取り扱うものである。
右のとおり、租税特別措置法六二条一項の立法目的は正当であり、同条項が企業の期末資本金等により、交際費等の損金不算入について格差を設けることは、わが国の財政・社会政策等国政全般からみて、右目的との関連で著しく不合理とはいえないことは明かであり、同条項が憲法一四条一項に違反する旨の原告の主張は失当である。
五 被告の主張に対する原告の認否及び反論
1(一) 被告の主張1(一)の事実は認める。
(二) 同1(二)(1)の事実は否認する。
本件オークションには、通常オークションと記念オークションとがあるが、抽選会が行われるのは後者においてであり、そこでの抽選方法は、当該記念オークションに一台以上出品若しくは一台以上落札した会員の会員番号を記載したカードを抽選箱に入れ、オークション終了時に抽選を行い、当選者を決定する。その際、当選者が会場にいない場合は失格となるものである。したがって、抽選券が来場した会員に、購入金額や購入数量に関係なく、均等に配布されるものではない。なお、オークション終了後に会場に残っている会員全員に配布する「お残り賞」なるものはあるが、これは、三〇〇〇円以下の品物を配布しており、経費として認められている。
同1(二)(2)の事実も否認する。
本件抽選会において当選の権利を有するのは、オークションの会場に残った会員のうち、一台以上出品若しくは一台以上落札した会員に限られる。
2 被告の主張2、3について
本件抽選会は、休眠状態若しくはそれに近い会員をオークション会場に多数来場させ、夜遅くまでオークションに参加させることを目的とするものであり、「支出の目的が接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為を目的」とするものでないことは明かである。したがって、本件抽選が、「抽選会で景品を交付して会員の歓心を買い、もって、当該支出の相手方との間の親睦の度を密にして取引の円滑な進行を図ろうとする趣旨にでたもの」ではないので、損金不算入とされる交際費等ではない。
六 争点に関する原告の主張
1 本件費用は、売上割戻しの性質を有する支払奨励金である。
売上割戻しの実態は千差万別であり、売上高若しくは売掛金の回収以外に得意先の営業地域の特殊事情、協力度合等を勘案して支出する費用も、交際費に該当しない売上割戻金の性質を有する支払奨励金である。また、本件オークションの手順、方法等の特殊事情から、物品で支出したとしても、同様である。すなわち、本件オークションの会場は栃木県小山市にあり、オークションに参加している会員は、東北及び関東一円にわたっている。オークションは午前一二時から開始され、出品台数が多いときは、オークションの終了時刻は午後八時過ぎになる。このような時刻までオークションを開催するには、相応の企業努力が必要なのであり、本件費用は、単に相手方との間の親睦の度を密にして取引の円滑な進行を図ろうとする目的に出たものではなく、売上割戻金の性質を有する支払奨励金である。
2 本件費用は、販売促進費又は宣伝広告費に当たる。
とくに被告の主張する宣伝広告費の定義は不正確であり、「商品等の良廉性」を訴えることに限定すれば、いわゆるイメージ広告は宣伝広告費に入らないことになる。また、「特定かつ多数」であれば「不特定多数」であるとされる場合もあるとおり、「不特定多数」という概念も相対的なものである。そして、本件オートオークションにおいては、会員の全員が参加するわけではなく、より多くの会員がオークションに参加するよう促し、購買意欲を刺激するために、本件抽選会を行っているのであり、また、かかる抽選会を大々的に行っていることは、新規会員の募集をうたう雑誌、新聞等の広告にも掲載しており、新規会員獲得のための宣伝をも兼ねている。
3 憲法一四条違反
仮に本件費用が被告主張のように交際費等に当たるとしても、次のとおり本件課税は違法である。
すなわち、租税特別措置法は、交際費の損金算入限度額につき、期末資本金額が五〇〇〇万円を超える法人は〇円、同資本金額が一〇〇〇万円を超え五〇〇〇万円以下の法人は三〇〇万円、一〇〇〇万円以下の法人は四〇〇万円としている。これは、憲法一四条に定める法の下の平等に反するから、政策的に交際費課税が認められるとしても、原告についても、少なくとも四〇〇万円以下の交際費等は、損金への算入が認められて然るべきである。
第三争点に対する判断
一 租税特別措置法六二条三項は「交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係ある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの(専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用その他政令で定める費用を除く。)をいう。」と規定しており、また、交際費等が、一般的にその支出の相手方及び支出の目的からみて、得意先との親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図るために支出するものと理解されているから、その要件は、第一に支出の相手方が事業に関係のある者であること、第二に支出の目的がかかる相手方に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のためであること、にあるというべきである。
二 本件費用と交際費等について
前記四被告の主張1(一)の事実は、当事者間に争いがなく、また、証拠(甲五、弁論の全趣旨)によれば、同1(二)の事実が認められる。
原告は、本件抽選会において当選の権利を有するのは、本件オークションの会場に最後まで残った会員のうち、当該オークションに一台以上出品若しくは一台以上落札した会員に限られる旨主張し、これに副う証拠もある(甲八、九の一、一〇の四)が、これがすべてのオークションの場合に当てはまるものかどうか必ずしも明かではなく、これ以外の場合は、特に一台以上出品若しくは一台以上落札したことは要件になっていないものとみることができる。しかしながら、この点は、仮に原告主張のとおりであったとしても、交際費の要件に該当するか否かの判断に影響しないものというべきである。
右認定事実に基づき、本件費用が交際費等に該当するか否かを検討すると、まず第一に本件オートオークションの会員になるには、前記のとおり、中古自動車取扱古物許可証を有する者であるか、本件オートオークションの会員契約を締結した業者であって、かつ、本件オートオークションに参加を承認された者、又は本件オートオークションが特別に認めた者であることを必要とするから、本件費用の支出の相手方が原告の「事業に関係のある者」に限られていることは明かである。
第二に、本件費用は、抽選会における景品の交付、換言すれば、本件会員に対する贈答その他これに類する行為のために支出されたものであり、また、原告の主張によれば、本件抽選会の開催は、かかる方法によって、休眠状態若しくはそれに近い会員をオークション会場に多数来場させ、夜遅くまでオークションに参加させることを企図したというのであるから、それはとりも直さず、得意先等事業関係者に対する贈答その他これに類する行為により、親睦の度を密にして、取引関係の円滑な進行を図るために支出されたものということができる。
したがって、本件費用は、さきに述べた交際費等に該当するための二つの要件を満たしており、交際費等に当たる。
三 本件費用が支払奨励金に該当しないことについて
原告は、売上割戻金の性質を有する支払奨励金であると主張している。しかしながら、売上割戻金とは、典型的には、販売促進のため得意先に対し、一定数量又は一定金額を一定期間中に買入れ、代金を決済した場合に支払う返戻額であるところ、本件オートオークションの抽選会が前記認定のような方法で実施されている以上、本件費用が売上割戻金の性質を有しないことは明かである。
もっとも、売上割戻金というも、右のような典型的な内容のものに限らない。そして、金銭が交付される場合において、売上高若しくは売掛金の回収以外に得意先の営業地域の特殊事情、協力度合等を勘案して、その額が算定されるもの、物品が交付される場合においても、その物品が得意先である事業者においてたな卸資産若しくは固定資産として販売し若しくは使用することが明かな物品又はその購入単価が少額(おおむね三〇〇〇円以下)である物品であり、かつ、その交付の基準が売上割戻し等の算定基準と同一のもの等、税法上交際費等には該当しないと解するのが相当な場合もありうるが、本件費用は、このような場合に該当しない。
四 本件費用が損金に算入すべき販売促進費に該当しないことについて
租税特別措置法六二条三項にいう交際費等が前記のような内容のものである以上、交際費等の費用を支出する者は、これによっておおむね自らの商品の販売促進を意図しているものということができる。したがって、そのような意図で支出された費用がすべて損金に算入されうるわけではない。販売促進のために支出された費用であっても、それが前記一で述べた要件に該当する限り、交際費等として課税されるところ、本件費用は、前記一で述べた要件に該当するのであるから、損金に算入されるべき販売促進費に該当しないことは、おのずから明かである。
五 本件費用が宣伝広告費に該当しないことについて
本件費用は、前記の各要件を満たした者に対し前記の目的と方法で行われる抽選会で交付された景品の購入費用であるところ、宣伝広告費とは、購買意欲を刺激する目的で、直接又は間接に商品等の良廉性を広く不特定多数の者に訴えるための費用をいう。これに対し、本件費用の支出の相手方である本件オートオークションの会員は、前記のとおり、事業に関係のある者に限られているものであるから、本件費用が宣伝広告費に当たらないことは明かである。
六 租税特別措置法六二条の合憲性について
1 憲法一四条一項が規定する平等の保障は、課税権の行使にも及ぶものであるが、右規定は、国民に対し絶対的な平等を保障するものではなく、合理的な理由なくして差別することを禁止する趣旨であるから、国民各自の事実上の差異に着目して法的取扱を区別することは、その区別に合理性がある限り、何ら右規定に違反するものではない。そして、租税法の定立については、その規定対象の性質上、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるをえないから、租税法の分野における取扱の区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明かでない限り、その合理性を否定することができず、これを憲法一四条一項の規定に違反するものということはできないものと解するのが相当である。
2 ところで、交際費等の損金不算入制度は、昭和二九年に、冗費・濫費を節減して企業所得の内部留保による資本蓄積の促進を図る等のために政策的に設けられたものであり、昭和三五年以前は、資本金一〇〇〇万円以上(昭和二九年度から同三一年度は五〇〇万円以上)の法人にのみ適用されていた。
しかしながら、同制度創設後においても、交際費等の支出額は抑制されず、逆に交際費等の額が毎年増加する状況やこれに対する社会的批判の高まりが背景となって、課税の強化(損金不算入枠の拡大)を図る改正が行われ、昭和四〇年以降の改正では交際費等の支出額が増加し続ける状況に対する対策が一層強く考慮されるようになり、改正理由においても、資本蓄積の促進から交際費等の支出自体の抑制に重点が移された。そして、昭和三六年の改正以降、全法人がこの制度の対象とされるようになったものの、交際費等に対する社会的批判にも、中小企業と大企業との間にはおのずから差があるうえ、厳しい経済環境にある中小企業に対して特段の配慮をする必要からも、昭和五四年の改正で、再び期末資本金等により段階的に損金不算入額を算定する方法を採るようになり、昭和五七年の改正で今日に及んでいる。
3 以上のとおり、租税特別措置法六二条一項の立法目的は正当であり、同条項が企業の期末資本金等により交際費等の損金不算入について格差を設けることは、わが国の財政・経済・社会政策等国政全般からみて、右目的との関連で著しく不合理であることが明かであるとはいえず、同条項の合理性を否定することはできないから、憲法一四条一項に違反するものということはできず、原告の主張は失当である。
第四本件更正の適法性について
本件係争事業年度の更正処分に係る所得金額は、別紙記載のとおりであり、前記第二、二で述べた原告の本件係争事業年度の所得金額と同額であるから、本件更正は適法である。
第五本件賦課決定の適法性について
原告は、本件係争事業年度に係る所得金額を過少に申告していたので、被告は、国税通則法六五条一項及び二項の規定に基づき、本件更正により納付すべき税額に一定の割合を乗じて算出した金額の過少申告加算税を賦課決定したものであって、同決定は適法である。
(裁判官 佐久間重吉 辻次郎 丸地明子)
別表一の1ないし四の2<省略>
別紙
課税処分の経緯
区分
年月日
所得金額
法人税額
過少申告加算税額
確定申告
六三・一一・三〇
四六一七万五〇七一円
一五三二万一五〇〇円
―
更正処分
〇一・〇七・三一
七〇九八万三三四二円
二五七四万〇八〇〇円
一〇四万一〇〇〇円
異議申立
〇一・〇九・二八
六五四五万六四八六円
二三四一万九五〇〇円
八〇万九〇〇〇円
異議決定
―
〇一・一二・一五付けの東京国税局長宛の上申書により異議決定せず
審査請求
〇二・〇一・二〇
六五四五万六四八六円
二三四一万九五〇〇円
八〇万九〇〇〇円
審査裁決
〇三・〇二・二六
請求棄却